本報告書は、文部科学省の教育政策推進事業委託費による委託事業として、学校法人新井学園 赤門会日本語学校が実施した 令和3年度 専修学校留学生の学びの支援推進事業(コロナ禍を踏まえた各地域における外国人留学生の戦略的受入に向けた体制整備)「外国人グローバル専門人材の育成を促進する日本-ASEAN連携教育支援基盤の構築と整備」の成果を取り纏めたものである。
平成20年(2008年)、日本政府が「留学生30万人計画」を発表するのと同時に資格外活動(アルバイト)の条件を緩和したことで、働きながら学ぶ留学生が増加した。
多くの留学生は日本語教育機関(以下「日本語学校」)で日本語能力を高めた後、高等教育機関に進学するが、その進学先として専修学校専門課程(以下「専門学校」)を選択する留学生も多い。
令和2年(2020年)初頭から新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威を振るい、日本では同年4月、全国に緊急事態宣言が発出された。
それに伴い、多くの学校が休校措置を講じた。
授業は課題学習やオンラインでの在宅授業(以下「オンライン授業」)に移行したが、緊急事態宣言解除後、日本語学校や専門学校では順次、対面授業に戻った。
しかし、感染爆発の波が再来すると、それに呼応して緊急事態宣言が再び発出された―その繰返しであった。
教育機関はこれに右往左往させられた。
特に日本語学校は、感染症対策としての外国人の入国制限により、留学生の受入れが2年近く困難になり、壊滅的な打撃を受けた。
その日本語学校から留学生を受け入れる専門学校や大学も当然、その煽りを受けた。
今も刻々と変る感染情報や政府の方針に翻弄されている。
感染症対策を考慮した留学生受入れや留学生教育はどうあるべきか。
留学生を一番に受け入れて送り出す教育機関として、当校はそれを真剣に模索し、実践してきた。
その成果の一部を提供しつつ、オンライン授業等も含めた今後の留学生教育に示唆を与えられればと考え、本事業に取り組んだ。
留学資格による日本語学校への在籍は2年間に限られる。
感染症対策に伴う諸々の影響によって学習効果を充分に挙げられず、高等教育機関に進学できるだけの日本語能力を習得できない留学生は、このままでは帰国を余儀なくされる。
そのような留学生の救済措置として、2年を超えても日本語学校に在籍できるような正規の特例が必要であろう。
そして、令和3年(2021年)、日本語学校の在籍者は更に激減した。
そのため、経営不振等で閉鎖する学校が続出し、前年度に入学した在籍者にも大きな影響を与えた。
したがって、日本語学校の救済も然る事ながら、留学生の救済という観点で、日本語学校の再編成が必要であろう。
また、多くの日本語学校や専門学校は一時的であるが、オンライン授業を実施した。
そこで獲得した機器操作やデジタルコンテンツ作成のノウハウ等を教員から収集・蓄積するのと共に、学生には情報機器操作のルールを明確化する必要があろう。
その際、自宅から演習等に参加できる環境を確保できない留学生も多く、オンライン授業を実施できる科目に制限があることも判明した。
そのため、留学生への機器の提供・貸与等、オンライン授業のための環境整備についても、多くの日本語学校・専門学校等が対応に追われた。
令和2年4月以降も自国で待機する入学予定者に対し、国境を越えたオンライン授業を実施した日本語学校は複数ある。
しかし、共通の教科書もなく限られた時間での授業であったため、その教育効果はまだ適正に評価し切れていない。
しかも、入学予定者の繋ぎ止めの意味もあって授業料を徴収していない学校もあり、このオンライン教育はビジネスとして成立していない。
専門学校に進学する多くの留学生は発展途上国出身者であり、日本の学校の1年間の授業料は彼らにとって自国での数年分の年収に当る。
そのため、その授業料全額を自国で用立てられるのは限られた層の者であり、多くの留学生は授業料を日本でのアルバイトで賄う必要がある。
その一方で、リアルタイムのオンライン授業よりコストを削減できる、事前録画によるビデオオンデマンド形式のオンライン授業であっても、その授業料を彼らの自国の学校とほぼ同額(月数千円)に設定すると、日本の学校の運営コストを “留学生” が納付する授業料で賄うことは困難である。
日本の学校には授業料の減額に下限があるが、自国に滞在する “留学生” にも支払える授業料に上限がある。
その下限と上限に接点がない、言わば「授業料の格差」が存在する。
日本語教育がオンライン化されても、日本語学校の経営が成り立つ授業料を “留学生” が自国で工面するのは極めて困難であり、授業料において接点を持てねば、彼らは高等教育機関への留学の糸口に辿り着けない。
そして、専門学校においても、これと同様の「授業料の格差」が存在する。
いづれにせよ、それまで留学生の受入れを拡大し続けて「留学生30万人計画」の達成に大きく寄与した日本語学校と専門学校において、従来の留学生受入れモデルは機能不全に陥りつつある。
当然その対抗措置は急務で、実際、学生支援緊急給付金の適用等、留学生の学び継続を支援する経済的施策も幾つか発出されてはいる。
しかし、その学び継続を支える本質とも言える、“Withコロナ” 下の新しい教育環境や留学生受入れ体制はまだ充分に整備されていない。
そのため、オンライン授業によって留学生が自国で学習に取り組める教育環境の構築、それを補完する教育コンテンツや学習管理システムの開発、さらに来日手続き・来日後学修および就職を支援する体制の整備等が、今まさに求められている。
そこで、本事業では、留学生受入れの新たな戦略モデルにおいて “ポストコロナ” の外国人グローバル専門人材を育成するべく、日本の専門学校・日本語学校・産業界とASEANの現地大学が連携し、遠隔教育システムに拠る授業提供や学修評価を実現する教育基盤と、留学生の受入れ・就職を促進する支援体制を構築する。
これにより、入口から出口までの一貫した留学生支援と人材供給ルートの確保が可能になる。
本事業は、文部科学省の「専修学校留学生の学びの支援推進事業」という枠組の中で実施するものであるが、それは本来、専修学校教育の振興を目的にし、専門学校が従来の留学生受入れモデルを脱して自ら主体的に留学生の募集・教育に取り組むことを促すものである。
しかし、多くの専門学校はこれまで、留学生の受入れを日本語学校に依拠してきたのであり、その募集や日本語教育の実践において独自のノウハウを確立できているわけでない。
つまり、専門学校における留学生受入れの新たな戦略モデルを構築すると言っても、そこには依然として、日本語学校の存在と協力が欠かせないのである。
実際、オンライン授業を含む海外への遠隔教育に逸早く取り組んだのは日本語学校である。
また、教育指導だけでなく、留学生の在籍管理や生活指導のノウハウでは、日本語学校に一日の長がある。
したがって、寧ろそのような日本語学校が主導し、これまで培ってきた知見・経験や連携体制を活かしながら、専門学校における留学生の教育基盤と支援環境を構築する本事業には、大きな意義があると自負している。
最後に、本事業の実施には、企画推進委員会・分科会を構成する委員各位、そして数々の協力者から多大なるご支援を頂戴した。そのご厚情に心から感謝を申し上げる。
(代表機関)学校法人新井学園 赤門会日本語学校